「全部見たわけでは無く、第1~2章はかなり飛ばしたが見た」
「感想は?」
「凄く微妙な気分になった」
「なんで?」
「これは自分が見る必要のある本では無かった」
「は? 2199嫌いになったの?」
「違う。自分が見たいのはヤマト2199であって、ヤマト2199の舞台裏ではないのだ」
「分からないなあ。ヤマト1974では設定資料を喜んで見ているじゃないか」
「そうだね」
「でも、ヤマト2199の設定資料は見なくていい資料なの?」
「そういうことになる」
「違いが分からないよ」
違いの所在 §
「では説明する。基本的に設定資料とは作画を行うために作成するものであり、普通の観客が普通に見るものではない。実際に、設定資料が分かりやすいとか、アピールするとは限らない」
「アニメーターが描ければいいわけだね」
「そうだ。だから、画面に見えるビジュアルは完成形である必要があるが、設定画はその必要が無い」
「絵として完成している必要は無いわけだね」
「そうだ。だから、立体感が足りなくてもいいし、必要の無い部分は真っ白でも良い」
「最終完成形のビジュアルにあればいいわけだね」
「そうだ」
「やはり話が見えないよ」
「ところがね。この水準を凌駕してしまう人たちがいる」
「凌駕というと?」
「手段としての設定画ではなく、設定がそのものに、物語、世界観、空気感を盛り込んでしまうケースがある」
「それらは最終完成形にだけあれば良いのではないの?」
「そうだ」
「じゃあ、最終完成形を前に物語、世界観、空気感が盛り込まれてしまうわけだね?」
「そうなのだが、実は設定画に盛り込まれた物語、世界観、空気感と、最終形に盛り込まれた物語、世界観、空気感が食い違うケースがある」
「それは大問題じゃん」
「逆に考えれば、そこで『設定画をあえて見る』という行為に意味が出てくる」
「ああ、分かった。正しく手段としての設定画である限り、最終完成形の画面を見るだけで良いが、そこから逸脱していると設定資料そのものを見る意味が出てくるわけだね」
「そうだ」
「では、具体的に誰が逸脱しているの?」
「あくまで個人的な考えだけど、ヤマトの場合、松本零士、スタジオぬえ、小林誠という名前を出せる」
「ぬえには加藤さんも宮武さんも含まれるという解釈で良いのだね?」
「そういうことになる」
「しかし、2199の設定画を君は去年のキャラホビの時に見ていたじゃないか」
「あれはね。先の展開が分からないので、見る価値があった。でも第六章を見終わって第七章待ちの今、あえて見る意味があるのかというと、そこは微妙だ」
「微妙か!」
「では、ここで考えてみよう。なぜ我々は設定資料を見たいと思うのだろうか」
「なぜだろう」
「いつから設定資料が意味を持つようになったのだろうか」
「いつ?」
「自分の場合最初のロマンアルバムだが、要するに松本零士とスタジオぬえのデザインであり、本来のオーソドックスな設定からは逸脱していたわけだ」
「つまり逸脱が基準になって、設定資料を見たいという欲求が生まれたわけだね?」
「そこから逆算すると、正しく無駄なく最低限のあるべき仕事をしている設定資料は見る意味が無い。最終完成形の映像を見ればそれで足りるからだ」
「じゃあさ。この設定資料集に小林誠さんの絵もあるけど、それはどうなの?」
「それだけは見る価値があった」
「理由は?」
「フィルムとは違う世界観が見えたからだ」
「小林誠さんだけ?」
「玉盛さんの絵にも少しあったけど、やはり圧倒的には小林誠さんの絵」
メカもキャラも §
「結局、メカもキャラも情報が過剰で、どこを見ていいか分からない。最終完成形の映像は、それほど情報の奔流にはなっておらず制御されているのだが、設定資料にはそういうリミッターは無い。客が見るものではなく、アニメーターが見るものだから、必要な情報は全部織り込んである」
「客の君には合わないわけだね」
「それに、量が多いと把握しきれず、ある程度以上の情報がどんどん抜けて行ってしまう。特に雑魚キャラには見た目がさほど違わない類型がいくつもあって、誰が誰だか印象に残らなくなってしまう。大工原の旦那のように、本編中で名前が出てきて印象的に立ち回ったキャラはいいが、そこにいるだけのキャラはもう訳が分からないよ」
「本来、客の君が見る資料じゃないってことだね」
「それでもマニアは暗記するのだろうが、自分は暗記物は不得意なんでね」
「ヤマト1974の台詞は覚えているくせに」
「若い頃の記憶は忘れにくいだけだ」
「ぎゃふん」
「ただ1つだけあえて言おう」
「なに?」
「p225~226の峰岸と佐藤だけは印象に残った」
「なんで?」
「峰岸は記号的な昔のアニメっぽい髪型が、明らかに異質だった」
「佐藤は?」
「ぽっちゃり系の女性は、これも明らかにヤマト2199では異質」
「佐藤って、赤道祭のときのコスプレ少女隊のぽっちゃり少女?」
「そうだ。あの時から目立った」
まとめ §
「じゃあまとめると、以下の項目以外は印象に残っていない、ということかな」
「第六章まで見た今となっては、ほとんどはいつか見た世界なのだ。見ていない部分があっても世界観は地続きだから、それほど驚くような話でも無い」
「色と音と動きが付いた状態で見ているから、今さら……ってことだね」
「うん。だからさ、色と音と動きが付いた状態で完成形となることを前提に書かれた設定資料なんだから、完成形で見たいよってことだ」
「一言で結論を要約すると?」
「自分がいま見たいのは設定資料では無く第七章」
「身も蓋も無い」
オマケ §
「変なことに気付いた」
「なんだい?」
「甲板員も主計課員も砲側員も、実は全員名前が設定されている」
「そうらしいね」
「ところがね、保安部員だけABCDEFGHIなのだ。伊東、星名、内海以外に名前が無い」
「えっ? なんで気付いたの? 峰岸と佐藤以外は印象に残ってないはずだろ?」
「峰岸と同じ見開きに保安部員も載ってたから! 名前の確認用にページを開いてあったので見えちゃったの!」
「ぎゃふん」
オマケ2 §
「桐生美影の膨れ顔。あんな顔が本編に出てこなくて良かった。明らかに世界観を壊す」
「ああ、これか。でもさ、それを言ったら、『これって2199の世界観的にどうなのよ』って事例が周辺にごろごろと……」
「それは見ないふりをして素通りするのが大人です!」
「でも世界観に合わない表情があってもいいわけ?」
「いいんだよ。ガンダムのアムロだって、明らかにアムロの性格的にそんな顔をしないだろうって表情が設定に描いてあるけど、最終的に本編に出てこないからそれでいい」
オマケIII §
「艦長、補助エンジンは限界点に達しています」
「ドメル艦隊から逃げ切れないというのかね?」
「いえ。本棚にもう本が入りません!」
「それはピンチだ。助けてスターシャさん!」
『わかりました。では本棚を贈りましょう。次元羅針盤の示す方向に本棚の設置スペースを空けて下さい』
「本棚を置く場所がありません!」